そして、ふたりきりになる教室。
「遅れてごめんね」
「ううん、大丈夫。先生に呼び出されたの?」
「いや、華さんのところに行ってた」
“華さんのところ”
神田くんにしたら、何気ない言葉だろうけれど。
少し胸が苦しくなるのはどうしてだろう。
いつもはこんな苦しくなることなんてないのに。
「……そっか」
その苦しさを消すように、わざと笑顔を浮かべる。
大丈夫、きっと気のせい。
「…さっき、ふたりからなんの話聞いた?」
「え?」
足立先輩と平沢先輩から聞いたことだろうか。
特に深い話をした覚えはない。
「普通に話してただけだよ」
「曖昧な答えはダメ」
ダメって、そんなこと言われても。
けれどダメだと言われては仕方がないため、素直に口を開く。
「そこまで話してないけど…敬語使われたから、それはやめてほしいって言ったのと、あとは……」
ここに来て言葉に詰まってしまう。
だってあとは、神田くんの彼女だと誤解されたこと。
それから───
「ちゃんと言わないと悪いことするよ」
私が言葉を詰まらせたことで、神田くんにまだ何かあるとバレてしまったようで。



