闇に溺れた天使にキスを。




「か、神田くん…!」

「白野さん、ふたりから聞いたことは全部忘れていいからね」


制服をきちんと着こなしている彼が、優しい笑みを浮かべる。

そんな彼に対し足立先輩と平沢先輩は、やっぱりどこか恐れているように見えて。


「す、すいません…!
俺たちが勘違いしてました!」

足立先輩が頭を下げて謝る。
どこか必死に見えなくもないけれど。


「勘違いではなくて本当なのですが、白野さんに言ってはいけません。それだと警戒されてしまう」


いつもは警戒しろと言うのに。
だから神田くんの考えていることがわからないのだ。


「すいません、これからは気をつけます」

平沢先輩も同じように頭を下げてから、神田くんと私の元へと近づいてくる。


「これ、ここの鍵です」

「ありがとうございます。
本当に翔さんには助けられました」


ふたりとも敬語なのはやっぱり違和感があるけれど、その会話を最後まで見届ける。


「いつでも言ってください。
少しでも佐久間さんの役に立ちたいんで」


真剣な表情に、嘘偽りがないであろう言葉。
神田くんを敬っているのがわかる。


「……ありがとうございます」

神田くんがお礼を言ったところで、平沢先輩は頭を下げてから教室を後にした。

足立先輩も続けて頭を下げ、平沢先輩の後をついていく。