闇に溺れた天使にキスを。




周りに誰もいないことを確認し……なんて、そこまで用心深くはないけれど。

階段を上る時、それから空き教室に着いた時。


周りに人がいなくて安心する。
そしてドアの前に立ち、ゆっくりと開けて中に入れば───


「……え」

そこに神田くんの姿はなかった。


「なんでお前……白野さんが?」

神田くんではなく、そこには目立った金髪である足立先輩とクールな平沢先輩の姿があった。

真っ先に足立先輩が私に気づいて驚いた様子を見せる。


もう一度教室を見渡すけれど、やっぱり神田くんの姿はない。

私より先に出て行ったのに…先生に呼び出されたのかな。
なんて、そんなことを呑気に考えている場合ではない。


「あ、えっと…」
「総長の呼び出されたんですか?」


返答に戸惑っている私に対し、平沢先輩がなるべく刺激しないよう優しく質問してくれる。

けれどそれ以上に、平沢先輩の敬語に違和感があった。
どうして年下の私なんかに敬語を…?

「はい…多分、そうです」


戸惑いのほうが強いけれど、これ以上黙っていればふたりを混乱させるだけのため、言葉を返す。

ただ、これが呼び出されたことになるのかわからなくて、曖昧な返事しかできない。