物語を読んでいるのに、勉強?
小説でも書いているのだろうか。

わけがわからなくて混乱する私に、神田くんが小さく笑った。


「ごめん、わけわからないよね」
「え、いや……あの」

「じゃあ、ここだけの話ね。
本を読んでるのは感情の勉強、してるからだよ」


表情を一切変えず、穏やかな笑みのままで話す彼。

感情の、勉強……?


「実は俺、喜怒哀楽を表現するのが苦手なんだ」

初めて知る、神田くん本人から聞く彼自身のこと。
喜怒哀楽の表現が苦手……そんなの、誰が想像できただろう。


少なくとも私はわざと感情を読ませないように、穏やかなままでいるものだと思っていた。


「だから主人公の気持ちになって“考える”ことで、それを学んでる」


内緒だよって言われたけれど、誰にも言えるはずがない。