「あっ、えと…」

何を言おうかだなんて、考えていなかったから。
言葉に詰まってしまう。


早く、早く行かないといけないはずなのに。
私がここで呼び止めてどうするんだって。


「……焦らないで」

けれど急いでいるはずの彼が、私を落ち着かせてくれる。

彼のシャツを掴んでいる私の手も剥がそうともせず、そのままで。


「あのっ……神田くんは、行っちゃうの…?」

本当はこんな呼び止めるような言い方、するつもりなんてなかったというのに。

うまく言葉にできなくて、結果このような形になってしまう。


「ち、違っ……あのね、また怪我するんじゃないかって思うと怖くて…」


自分でも何を言っているのかあまりわかっていない。
ただ、今の気持ちを無理矢理言葉にしているだけ。