「神田くんがあっち向いてくれたら向くの」
「それは悲しいな。白野さんに拒否された」


声はまったく悲しそうじゃない。

その上私の頭を撫でる手つきが優しく、まるで揺らいでいる心をゆっくり溶かしていくかのよう。


「私、他に本探してくるね」

早くこの場から逃げないとって。
本能的に危ないと思った。


「逃げようとされたら、捕まえたくなるんだよね」
「……へ」


けれど、彼がそれを許してくれなかった。
あっという間に、目の前が彼でいっぱいになる。

背中には本棚、目の前には神田くん。
それはほんの一瞬だった。


肩に手を置かれたような感触はあったけれど、本当に優しく、少しの力で。

私の体は反転させられ、行く手を塞がれてしまう。