足早に去っていく、3人の生徒たち。
図書室のドアが大きな音を立てて閉められた時。
ようやく静寂の世界が訪れる。
「今日、先生は?」
静かな空間に、彼の低い声はよく響く。
「会議が、あるらしくて…」
「そうなんだ。じゃあしばらくはふたりだね」
私を見て、含みのある笑みを浮かべる彼。
危険なにおいを漂わせながら。
慌てて顔を背け、本棚へと視線を戻す。
今、彼を見てはいけない気がした。
そう。
彼を見てしまえば───
捕らえられる、と。
そう思った。
「あれ、逸らされちゃった」
余裕のある声音。
さらには彼の手が、私の髪にそっと触れたかと思うと。
「こっち向いてくれないの?」
私の心を揺らがすような、ずるい聞き方をしてくる彼。
優しく誘うようにも捉えられる。



