「とりあえず座ろっか」


否定も肯定もできずにいると、神田くんは私の手を引いて歩き出した。

そして自分の席の前へと誘導する。


その間、確かに私の手は神田くんに握られていて。
男の人ってこんなにも手が大きいんだと思った。


「ごめんね、いきなり」

お互い席に座るなり、神田くんは私に謝った。
私は彼の方に体を向け、首を何度も横に振る。

彼が謝ることなんて何もない。


「私が、神田くんを引き止めたから…」

また声が少し震え、詰まってしまう。
彼の名前を初めて本人の前で呼んだ気がした。


「ううん、違うよ。
俺は白野さんと話してみたかったんだ」

「私、と……?」
「そうだよ」


嘘だ、と真っ先に思った。

同じクラスになって二ヶ月しか経っていない。

目立ったことをした覚えはないし、神田くんが私の存在を認知していたことすら奇跡に近いことなのに。