きみのひだまりになりたい



◇◇



『オレンジ100%』


そのパッケージの真下に設けられたボタンを、力強く押した。ボタンが光ると、ガコンッ!とひときわ大きな音を立て、受け口が振動した。いつもの白と橙色の紙パックを手に取り、ストローをぶっ刺した。


本日、2杯目となる。




「……おかしい」




味が、ではない。味は今日もとてもおいしい。冷えきったジュースがのどをやさしくうるおす。何杯でも飲める。

そうではない。おかしいのは、コレのことではなくて。



屋上に木本くんがいなかった。


昼休みにお弁当を持参して行ってみたら、いつもはあるはずの姿がなかったのだ。給水塔の上にも、屋上の隅にも、どこにもいない。何か用事があるのかと思い、ひとりでごはんを食べながらしばらく待ってみたが、結局現れないまま昼休みが終わろうとしている。

一緒に昼休みを過ごすようになって初めてのことだった。



さみしくてついジュースを買っていた。さみしいのは口ではないのだけれども。


バコ、とパックの表面がへこんだ。ストローから口を離す。口の中にじんわりと沁みていく液体は、心なしか酸味を強く感じる。

おかしい。やっぱり味もおかしい。


二日ぶりに木本くんに会えると思っていた。小野寺くんからの伝言も頼まれていたのに。

何かあったのかな。心を開いてくれているなんて、勘違いも甚だしかったのかもしれないな。




「やっぱ何度見ても、木本くんかっこいいわ」




反射的に声のしたほうに首を回した。女子生徒がふたり、2-1の教室のあるほうから財布片手に歩いてくる。自販機で飲み物を買いに来たようだ。




「わたし、初めて見たかも」


「というかほんとに初めてだよね?」


「木本くんが教室で昼食とるってめずらしすぎ!」


「パン食べてるところもかっこよい」


「今まで知らなかったのが惜しいくらいにね。何しててもお美しい」


「いつも昼休みになるとすぐどっか行っちゃうもんね~」


「うわさだと、あの田中まひるとごはん食べてるんだって」


「え、そうなん? あのふたり付き合ってるの?」


「らしいよ?」


「まじか。意外」


「ね」