きみのひだまりになりたい



そう……だろうか。

目には見えない壁が、本当に失くなっていっているのかな。平日はほぼ一緒にいる……というかつきまとっているから、自分ではいまいち計り知れない。


でも言われてみれば、木本くんから言葉をくれることが多くなった……気がする。心の底に忍ばせられた深層部分には、まだあまり触れることはできていないけれど。それでも。木本くんの思いは、届くようになった。

自惚れてもいいのかな……。




「つうか、そんなうわさ立って大丈夫なのか?」


「と、いいますと?」


「朱里のファンとかに何かされたりしねぇの?」




やけに不穏な面持ちをしている。小野寺くんの考える『何か』が何なのか、手に取るようにわかった。


案ずるのもわかる。よく言うもんね。女の争いは陰湿で、たちがわるい、って。そこに恋愛という厄介な問題まで上乗せされたら、陰湿どころじゃなくなる。どろどろでぐちゃぐちゃなド修羅場だ。想像するだけでぞっとする。




「今のところは何も……。でも、」


「だいじょーぶだよ。ねー?」


「うん。大丈夫な気がしてる。根拠はないけど」


「ないのかよ」


「あたしはあるよ! 今は木本朱里を本気で好きな子ってあんまりいないと思うんだよね。憧れ止まりってゆーか、アイドルみたく崇拝してるだけってゆーか。だからそこまで“ザ・ガチバトル!”みたいな危険な事態は起きないと思うよ?」




ひよりん調べは、あながち的を得ていると思う。木本くんの立ち位置が“みんなの目の保養”で定着しているのは、女子の反応から見て取れる。


本気で木本くんに恋している子もいるだろうが、小野寺くんの言う『何か』は、恋する気持ちだけでは起こり得ない。純白な好意にあれやこれや感情をごちゃまぜにして、初めて汚れていくのだ。


人を好きになることが、わるいんじゃない。