うわさに動じる者がここにもひとり。
ちょうど教室にやってきた小野寺くんは、手荷物を机に落っことしたきり、ぎょっとして目を白黒させている。
どっしりとしたどでかいリュックに、うすっぺらい学校指定のスクバが倒れかかる。朝練を終え、汗をしっかり吸収したタオルが、まめだらけの手元からすり抜けた。ひらりと舞い、リュックの上にかぶさる。
「そっか。あいつ、やっと……」
「ないない! 付き合ってないよ!」
「今は、ね~?」
なぜかよろこんでいるところ申しわけないけど、ちがいます。鵜呑みにしないでください。カレカノじゃないですよ。
大きく両うでを交差させてバツ印を作る。浮かれた表情を冷ましていく小野寺くんとは反対に、ひよりんは期待を高まらせている。
今後はどうなるかわからないけど、とにかく現時点では付き合ってないし、その予兆もありませんー!
「……なんだ。付き合ってねぇのか」
「そうそう。根も葉もないデマだよ。……友だちになれてるかさえあやしいのに」
「それはなれてるんじゃない?」
「ええ……? そうかな?」
「だって、あの木本朱里にこんなうわさが立つんだよ? 木本朱里がまひるんに心を開いてる証拠じゃない?」
ひよりんは小野寺くんにあいさつがてら同意を求める。小野寺くんもうんうんとうなずきながら、タオルをリュックにしまいこんだ。



