きみのひだまりになりたい



ひよりんは三つ編みの髪の毛をきつく握りしめた。むうっと右のほっぺをふくらまし、悔しさと歯がゆさをほのめかす。



……気づかなかった。

人知れず守ってくれていたんだね。だからわたしは、のんきに過ごしていられたんだ。

ひよりんのおかげで、なんとかなっていた。



うなだれた栗色の頭を撫で、ありがとうとほほえむ。しょぼくれていたひよりんのテンションが一瞬にして戻った。




「ひよりんは、その……で、デキてるってうわさは、いつ、どこで、誰が言ってたの?」


「今朝だよ。靴を履き替えてたとき、女子が話してるのを聞いたの。最近、あの孤高のプリンスと一緒にごはんを食べて、下校デートして、いちゃついてる子がいるらしい~って」


「それが、わたしだと……」


「そゆこと!」




むずかしい問題だ。テストよりよっぽど難易度が高い。


すべてまちがいじゃないところが、よけいに複雑なんだよなあ。木本くんとランチしているし、先週の金曜日は途中まで一緒に帰った。そう、事実無根とは言いがたいんだよ。


だけど……いちゃついてはないよ?

一緒に帰ったけど、あれはデートとは言えない。はたからそう見えるようなことをした覚えもない。いちゃつくとは何なのか。誰か、模範解答を教えてほしい。




「まあ、うわさにもなるよね。みーんな、ゴシップ好きだし。渦中の人物が木本朱里ならなおさら! 彼をついに陥落させた美少女は誰だ!? ってね」


「いやいや。美少女て……」


「お似合いだもん。まひるんと木本朱里。なんてゆうの? 絵になるっていうかさ~」




「えっ!? 朱里と田中、付き合ってんの!?」




ななめうしろの席に、素っ頓狂な叫びとともに、どす、と重たい音が落ちた。