本能的に手が伸びていた。
さらり、と人差し指でダークブラウンの前髪をかき分ける。汗ばんだ額に指先をかすらせる。熱を測るように中指、薬指を順にくっつけ、汗を拭ってあげた。
冷たい。かと思えば、少しずつ熱くなっていく。
木本くんの顔がゆらりと持ち上がる。夕焼けに陰を飲み込まれていった。
「……な、何だよ」
「熱い?」
「ああ、まあ……暑い、かも?」
「……夏だね」
「……そう、だな」
人差し指を軽く上げた。同時に、木本くんの前髪も上がる。その黒い瞳がよく見える。目と目がばっちり合っている。
もう夏だよ。衣替えは済ませたし、日も長い。汗もかくし、暑くもなる。ねぇ。熱いね。夏だもんね。うそじゃない。
「近々夏祭りがあるらしいよ」
「夏だな」
「ね。気づいたら夏だ」
鳥居を入ってすぐのところに掲示板が設置されてある。一枚のポスターがでかでかと貼られていた。夜空に花火が打ち上がった写真に、筆文字のフォントで「夏祭り」と記されてある。
開催日は、8月1日。来月だ。夏休み真っただ中に行われるらしい。
「木本くん、一緒に行こうよ!」
「は? なんで」
「ごはんはひとりよりふたりでのほうがおいしい! ねっ!?」
「またそれか。花火が目的じゃねぇのかよ」
「屋台の焼きそばって格別だよね」
「話聞けよ」
強引に約束を取りつけ、小指を出す。木本くんはいやいやそうにしながらも、小指を一瞬ぎゅっと握ってくれた。小指同士でゆびきりげんまんはできなかったけれど、これはこれでありかもしれない。
今から浴衣を選んでおかないと。



