◇◇
真っ黄色のお弁当箱。
その中には少し焦げた黄色。
しょっぱく味付けしたたまご焼きを、お弁当箱とセットの黄色の箸でつまみ上げた。ゆっくり口に運んでいく。
「なんでいるんだよ」
大きく開けた口にたまご焼きがゴールする直前、うしろからやつれた声が聞こえた。思わず箸を止める。
はしごをよじ登ってきた木本くんが、げんなりとした顔でこちらをにらんでいた。給水塔エリアに立つと、お弁当を広げて座っているわたしを見下ろす形になる。この美の圧はむさ苦しくない。影ができてちょうどいい。
「さっひふり〜」
さっきぶり、とたまご焼きを放り込んだ口をもぐもぐ動かしながら手を振った。のほほんとしたあいさつは圧を無効化するのだ。木本くんは出鼻をくじかれたように拍子抜けした。
ショートホームルーム前は朝の涼しさを感じた屋上は、正午になると日が照ってあたたかい。透明だった光は、どこか黄色みを帯びているよう。ひなたぼっこするには持ってこいだ。
たまご焼きも光の効果で黄色がよりきれいに見える。気がする。うん、気がするだけ。焦げた部分はなかったことにならない。
「木本くんはたまご焼きはしょっぱい派? 甘い派?」
「なに世間話始めようとしてんだよ」
「え、だめ?」
首をかしげると、木本くんは渋柿を食べたような表情になる。反論しようとした口を引き結び、隣に腰を下ろす。隣といっても、距離はだいぶ開いているのだけれど。
木本くんの右手首にぶら下げられていたビニール袋から、本日のお昼ごはんが出てきた。カレーパンとチョコデニッシュとアメリカンドッグ。
そして、紙パックのオレンジジュース。



