「その不良さんがどうしてこんなとこにいんだよ。せっかくひとりになれる場所を見つけたっつのに……」
どちらかといえば、猫顔、かなあ。
なんてことを考えていたら、軽い八つ当たりを受けた。
なるほど、なるほど。表情にわずかに残された険しさは、それが理由だったのね。先客の男の子にとってもここは、朝から来るほどお気に入りらしい。居心地いいもんね、ここ。気持ちはよーくわかる。
「先生から逃げてきた」
「……やっぱ不良じゃねぇか」
「だからちがうって!」
田中まひる、イコール、不良。この方程式は成り立たないということを学んでほしい。不正解である。断じてちがう。
「不良ってうわさされんのがいやなら、先生の言うことに従っとけば」
「いや」
食い気味に拒否すると、目の前の黒い瞳が意外そうに瞠った。
瞳まできれいなんだね、と伝えたら、その瞳はもっと小さくなるんだろう。
「不良って言われるのも、先生の意見を聞いて自分を変えるのも、どっちもいやだね」
はいそうですね、と従うのは簡単だ。人に合わせて、自分を殺して、それが常識のように振る舞って。そうやってみんなとおそろいを増やしていっても、何も満たされやしない。
だから、わたしは。
「わたし、自分に正直に生きるって決めてるの」
不敵に笑ってみせた。



