きみのひだまりになりたい



長い長い沈黙が落ちた。いや、実際はそう長くないのかもしれない。わたしの体感ではたった1秒が30分、1時間、それ以上にも感じられた。


風が横切る音も、校舎から響くあいさつも、聞こえない。聴覚が受け付けようとしない。唯一わかるのは、ドクドクと不安定に揺らぐ、自分の鼓動だけ。



まじか……。

こんな偶然ある?




「…………」


「…………」


「………き、」


「田中、まひる」




ポツリ、と。

わたしよりも先に低い声が紡いだ。


わたしの、名前を。




「え、ええっと……はい、そう、です。田中 まひるです。よく知ってましたね?」




おどろきの連続だ。まさか名前を覚えられているとは思わなかった。しかもフルネーム。


とうに平静を装えずにいる。歯切れのわるい口調にカチコチの敬語を使ってしまったのもそのせいだ。


心音が大きくなる。こっちも平静さを忘れてしまったらしい。不整脈がいっこうに治らない。どうしてくれよう。




「有名だからな」


「有名? わたしが?」


「ああ。不良少女ってうわさになってた」


「不良!?」




何がどうしてそうなった。わたしはいつ不良デビューしたんだ。まったく身に覚えがない。うわさの内容が非常に気になるところ。


先客の男の子は上半身を起こして、探るような視線でわたしを見てくる。うわさを鵜呑みにしてはいないんだろうけれど、実際にうわさがある以上警戒しているんだろう。さながら野良猫のようで愛らしくも思えてくる。