「だって。よかったね」
「え? まおちゃんが作ったの?」
まおちゃんがお母さんに反応するよりもはやく、箸で持ち上げた豚肉とまおちゃんを見比べる。
綺麗な指先に操られるまおちゃんの箸が止まった。
「まあ、混ぜてつけて焼いただけ」
「そ、そうだろうけど……」
そっか。これ、まおちゃんが作ったんだ。
キッチンに立ってたのは見てたけど、サラダとかスープとかを作るの手伝ってるんだと思ってた。
だって、コンソメのパッケージ持ってたし。
「ありがとう」
お礼を言って、宙ぶらりんになっていた味噌焼きを一口。
正直、いつもの味との違いはわからない。
分量はお母さんに教えてもらったんだろうし、焼き加減で違いがわかるほどわたしの舌は上等じゃない。
だけど、まおちゃんが作ってくれたって思うだけで、噛み締めると幸せまで滲むみたいだった。
緩む頬を引き締めていると、横から別の箸が伸びてくる。
「あっ、かおる」
「もーらい」
止める間もなく持っていかれた一切れを名残惜しく目で追いかけると、薫は自分の皿を指先で示した。
「いいよ、食べて」
「食べられないって知ってるくせに」
小さい切れ端だったから、許すけど。
椅子の上で上体を薫から離すと、鼻で笑われた。
わかってるよ。無駄だって。もう取ったりしないって。
でも、何となく離れていたい。
全員が食べ終わって、いちばんに立ち上がったのはまおちゃん。
タレのつかないお椀とお茶碗を先に重ねて持っていくと、薫が器用に底がつかないように皿を持って流し台へ向かう。
特別じゃないけどお客さんであるまおちゃんに洗い物をさせるのってどうなんだろう。
わたしが行動するよりもお母さんの方がはやくて、キッチンに向かうお母さんにまおちゃんが言う。
「俺と薫でやるからいいよ」
「は? なんで俺まで」
「ふたりの方がすぐ済むだろ」
肩を並べたふたりの手元はここからでは見えない。
じゃあお願いねって洗い物はふたりに任せて、お母さんがお茶の準備を始める。
「和華は? お茶いる?」
「んーん。先に部屋行ってる」
まおちゃんにも聞こえるように言って先にリビングを出た。
たぶん、この後はお父さんとお母さんがテレビを観るから、薫も部屋に戻ると思う。
時間はまだ7時を過ぎたくらいで、ドラマは9時から。
2時間もまおちゃんと一緒にいられるの、嬉しいけどちょっとやだなって思う。
あとでこっそり、薫を呼ぼう。
薫が自ら来てくれたらいいんだけど、きっとそうはしてくれないと思うから。



