「まおちゃん! ヘルプ!」


「はー? うわ、そりゃやべえな。おばさんごめん、すぐ戻る」


言い終える頃にはもうまおちゃんはわたしの後ろにいた。

ソファを迂回する時間も惜しいのか、わたしの肩から手を伸ばしてコントローラーを握る。

あろうことか、わたしの手の上から。


「ちょ、まおちゃん」


「和華は左連打してて」


耳の後ろから滑り込むみたいに、這うみたいに囁かれて、腕も体も緊張で固まってしまう。

それでも、言われたことはしっかりとこなしてくれる左手の親指、わたしの指ながらえらい。すごい。


「珍しいな、薫がこのレベルのやつに苦戦するのって」


「どっかの誰かのせいで気が散った」


協力プレイってこういうこと言うんだろうな。

薫のサポートっていう、やっていることは同じなんだけど、まおちゃんの動き方と同じことしろって言われたら無理だ。

画面と手の動きを忙しなくあっちこっち見ていると、背後でまおちゃんが笑う。

その振動が腕にダイレクトに伝わって、つい連打する指を止めそうになった。


「こっからやってみるか?」


「むりむりむり、まおちゃんに任せる」


色んな意味で無理だ。

単調な連打ならかろうじてできているけど、今なら雑魚敵相手にもやられてしまう気がする。


よほどおかしかったのかまだ笑い続けるまおちゃんの顔をそっと仰ぎ見ようとしたとき。


「っしゃ!!」


鼓膜を劈く勢いで薫が歓喜の声を上げる。

コントローラーを片手に掲げて、もう片方の手をわたしに伸ばしてきた。

だけどその手はわたしに触れるわけでも撫でるでも叩くでもなく、わたしの顔の横で何かとぶつかった。

まおちゃんとハイタッチしてるんだ。

いいな、わたしもしたい。

何も活躍してないけど。


「もう生姜待ちだけだから、そろそろ切り上げろよ」


「お! ボーナス来た!」


まおちゃんの語尾に被せて薫がコントローラーを握り直す。

その間に、今度こそまおちゃんを見上げた。


「まおちゃん、ありがとう」


コントローラーから手は離してるけど、わたしの爪を指の腹で撫でるまおちゃんはなかなか離れてくれない。

こういうことしちゃダメだって言ってるのに。

指摘すると、こういうことってどういうこと? とか言ってとぼけるから、好きにさせてる。