「ありがとう、かき玉にしてくれたんだ」


これはちょっと、想像してなかったな。

だから少し時間がかかったんだ。

ふわふわの卵を木製のスプーンですくい上げて口に含む。

わたしの要望通りお湯を多めにしてくれているけど、卵と一緒に足したらしき胡椒が程よく効いてる。


「卵、あと何個だった?」


部屋から出て行かずにテーブルを挟んでラグの上の座ったお父さんに聞くと、指折り数えるような仕草を見せる。


「みっつ?」


「ちょっと。さっき見たんでしょ」


しっかりしてよって言うと、お父さんは困ったように笑った。


卵とわかめと春雨と、ほんの少しのネギが入ったスープを飲み干してテーブルに置くと、お父さんがすぐにお椀を受け取って出て行こうとする。

急いで離れたいわけじゃなくて、わたしを気遣っての行動なんだろうけど、あからさますぎて笑みが零れる。

薫の方がもっと上手くやってるよ。


「お父さんってクマ好き?」


「クマ? いや、別に普通だけど」


「じゃあ、お母さんがクマ好きなんだ」


何となく、この間お母さんが探してたテディベアを思い出した。

2匹のテディベアは今ふたりの寝室にいる。


「いやあ、お母さんも好きなわけじゃないよ」


「え、そうなの? ならなんでプレゼントがテディベア?」


「記念といえばテディベアかなって」


鼻先を人差し指で掻いて、お父さんは天井辺りに視線を彷徨わせる。

そういう安直なところ、お父さんらしいんだけど。

オチもヤマもない話の後に沈黙が落ちて、お父さんが立ち上がる。


そうして部屋を出て行こうとする間際、わたしの机に目をやった。


「学校、大変じゃないか?」


「ううん。平気。勉強楽しいし」


それをまおちゃんや薫に言うと、信じられないものでも見るような目をされるんだけど、嘘じゃない。


「もうすぐテストなんだけど、もう今から手応えあるもん」


「はは、それは、楽しみだな」


筆記試験はWEB上では受けられないから、入学してから月一でしか通っていない学校に2日間は拘束されることになる。

前期の試験のとき、それで少し体調を崩したこともあって、お母さんもわたし自身も心配なところではあるんだけど。