「俺、眞央のこと嫌いだよ」


「……うん」


知ってる。


「姉ちゃんがなんで眞央のこと好きなのか全然わからないし、やめとけって思うし、あいつに本当に彼女がいるなら、姉ちゃんに構わないでほしい」


「かおる、ちょっと姉バカなんじゃない?」


「姉バカで結構。なあ、姉ちゃん」


急に真面目な顔をして、でもちょっと泣きそうな目で、わたしを見る。


「お母さんもお父さんも、俺も。姉ちゃんのためなら今ある全部投げ出したっていいと思ってる。あの時から、ずっと変わらずに。だから、傷付くくらいなら本当にどこか遠くへ行こう」


射すくめられて、どこにも逃げられない。

薫の言うことは、嬉しいけど、苦しい。


「ありがとう、薫。もう大丈夫だよ」


納得していないような顔。

そりゃあ、納得はできないよね。

現に、悄げるわたしの姿をついさっき見せてしまったのだから。


お母さんが電話を終えてこちらに戻ってきた。

しばらく雲の形を動物に準えたりだとか、船の数を数えたりしていたけど、そのうちに肌寒くなってきて、車に戻った。


行きよりも遠回りをする帰り道の途中で薫は眠ってしまったらしく、あどけない寝顔がガラスに反射してる。

わたしも少し疲れてしまって、ぼうっと窓の外を眺める。


薫がさっき言ったことが、頭の中に円を描いて、何度も蘇る。


『俺、眞央のこと嫌いだよ』


わたしにあんなことがなければ、薫がまおちゃんを嫌うことなんて、たぶんなかった。

嫌いたくて嫌ってるわけじゃないと思う。

だから、まおちゃんがうちに来たときは普通に接しているし、部屋に泊めるのだって強要してのことじゃない。


わたしとまおちゃんの関係はずっと変わらない。

変わったのは、薫のまおちゃんへと意識と、まおちゃんに彼女ができたこと。それだけ。


巻き込むだけ巻き込んで、中心のわたしは何も負わないなんて、そんなことがあっていいの?

薫、まおちゃんのこと嫌いたくなかったよね。

本当に嫌いなら、あんな顔しない。

嫌いって言いながら、自分の言葉を否定したがっているような目で、くちびるを噛んだりしない。


視界に入る窓ガラス越しの薫を見ていられなくて、瞼を伏せる。


どんなに考えたって、嫌いの消し方は見つからなかった。