「かおるは、もしわたしが遠くに行きたいって言ったらついてきてくれる?」
突拍子もないこと言って、ごめんね。
こういうこと、簡単に口にするから、また薫に心配させてしまう。
「当然だろ」
即答のその意味を考えただけで、目頭が熱くなる。
遠くに行くってことは、今近くにあるものを全部、置いていくってことなんだよ。
間髪入れずに答えられるようなことじゃない。
答えを出していいような問いじゃない。
「前にね、まおちゃんにも同じこと聞いたんだ」
その返事も、結構嬉しかったんだけど。
わたしの心が求めているのは、薫の返事だった。
「遠くに行かないように引き止めるって」
「眞央らしいな、それ」
張り詰めていた空気が緩んでいく。
薫が笑ったから。つられて、わたしも笑ったから。
「でもそれって、まおちゃんの手を振り払って本当に遠くに行っちゃったら、追いかけてきてくれるかわかんないよね」
言葉は嬉しかった。
誰かを引き止めることって、なかなかできない。
腕は2本しかないから、繋ぎ止められてもふたりまで。
もしかしたら、たったひとりでも、羽交い締めにしなきゃいけないかもしれない。
だから、もしその手を振り切って逃げ出したとき、まおちゃんが追いかけて掴んでくれるかまでは、聞けなかった。
そしたらもう知らない、なんて言われたら、すごくショックを受けることが自分でわかってたから。



