緩く長い、海に沿ったカーブを過ぎ終えてそのまま展望台へ向かう。
実はこのコースはドライブの定番で、わたしに限らず家族の誰かが落ち込んでたり、逆に良いことがあると必ず海と展望台に向かう。
そのたびに、海と展望台って真反対だって誰かが言うんだけど、でもいいじゃんって、また誰かが返すんだ。
上り坂をぐんぐんと上っていく。
対向車には一台も出会わなくて、昼間といえど冬の風は冷たいのに薫がずっと窓を開けているから、わたしとお母さんが同時にくしゃみをこぼす。
そうすると、薫がハモったとか言って笑うんだけど、その後二連続でくしゃみをしてた。
薫が窓を閉めると車内から風の音が消えて静寂になりかけたけど、思い出したようにさっき途切れた会話が再開される。
「そういえば、あのとき眞央くんが」
薫はたぶん、意図的にまおちゃんの話題を出さずにいるけど、お母さんはたまにまおちゃんの話をした。
そういえば、わたしの家族ってみんな、まおちゃんの呼び方が違うんだ。
わたしは『まおちゃん』
薫は『眞央』
お母さんは『眞央くん』
お父さんは『まぁお』
お父さんのは、名前を呼び捨てなんだけど、なんか二文字の間に小さい『ぁ』が入る。
なんか、妙に耳に残る呼び方で、まおちゃんも気に入ってる。
家族の一員みたいなまおちゃん。
うちの家の人がみんな気に入ってるまおちゃん。
だけど、まおちゃんはこのドライブには参加しないし、うちでご飯を食べても薫の部屋に泊まってもお父さんと野球談義で盛り上がってもお母さんとドラマを見ていても、家族にはなれない。
だから、別の形を探してた。
幼馴染みでもいいけど、友だちでもいいけど、でももっと欲張りたい。
いつか、まおちゃんと家族になれるような、そんな関係になりたかった。



