きっともう好きじゃない。



「そういうところ、変わらないよね」


誰がそう言ったのか、わからなかった。

背中に壁があることが救いで、たぶん背中を支えるものがなかったら、崩れ落ちてしまってたと思う。

何も言わなくなったわたしに興味をなくしたのか、捨て台詞もなく3人は去って行った。


ほどなくして、お母さんがやって来る。


「お待たせー。和華、どうしたの?」


壁に凭れたまま微動だにしないわたしの顔を覗き込んで、お母さんが神妙な面持ちになる。


「ちょっと座る? 何か飲もうか」


「ううん、大丈夫。もう、帰ろう?」


体には緊張と脱力が同時に押し寄せて、足が縺れかけたけど、何とか気張ってお母さんに笑って見せる。

肩に添えられたお母さんの手を意識すると、少しだけ力のこもった部分が解けていくような気がした。


近くのパーキングに止めていた車に乗って、後部座席に横になる。

揺れるよ、とわざわざ声をかけてくれたお母さんに蚊の鳴くような声で返事をして、目を瞑る。


シートの感触を頬に感じながら、顔の近くに持ってきた腕に目元を埋める。

指先が冷たくなって、あんまり力が入らない。


車を走らせ始めてから、お母さんは何も言わなかった。

窓の外の景色は寝転がっていたらどこを通っているのかわからなくて、見覚えのあるお弁当屋さんの看板が見えたとき、もう家が近いことに気付いた。


「あ、和華。ちょっと止まるよ」


お母さんが言ってすぐに路肩に寄る動きをした。

ハザードランプが点滅する音の合間に、助手席のドアが開く。


「お母さん、今日って姉ちゃんと一緒じゃ……って、うわ。いるし」


「うわって、なに」


助手席に座った薫を腕の隙間からじっとりと睨む。

おー、こわ、なんて言いながら、一瞬こちらを気遣うような心配そうな目をしたのを見逃さなかった。