きっともう好きじゃない。



フロアの半分を丸ごと特設会場にしたバレンタインフェア。

やっぱり結構な人混みが出来上がっていて、お母さんと離れないように端から順に見て回る。


「今年は手作りじゃないの?」


「うん。やっぱり、ちゃんと……」


ちゃんと、区切っておきたくて。

まおちゃんに彼女ができたって聞いてから、これまで変わったことがひとつもない。

まおちゃんは結構な頻度でわたしの部屋に来るし、スキンシップも元から多かったわけじゃないから前と同じように触れるしくっつく。

まおちゃんの調子に合わせていたら、いつまでも埒が明かないから。

それって何の? って言われたら、答えは不明瞭なんだけど。


最後まで言い切らなかったからか、ちゃんとの意味をお母さんは勘違いしてしまったんだと思う。

確かに、と謎に納得して、瞬間に商品を見る目が少し変わった。

見て回ろう、じゃなくて、良いもの見定めようって目。

その目には既視感がある。

あ、あれだ。スーパーで野菜か魚と向き合ってるときと一緒。


「じゃあ、お母さんも今年は既製品にしよう」


「いいんじゃない、たまには。お父さん何でも喜ぶし」


ただ、薫は文句を言うかもしれない。

質より量。だけど質も上物だと尚良し。

そんな、どつきたくなるような思考だから、薫って。


思いのほか店が多かったから、買うものはチョコに限定してみると、案外早く良さげなものが見つかった。


4粒入りのチョコレート。

それから、6個入りと12個入り。

どうして薫のがいちばん高くなるんだって思うけど、質良し量良しとなれば、高くなるのも当然だから仕方ない。

お父さんのはお酒の入った6個入り。

まおちゃん用の4粒は可愛らしい鳥が2羽と葉っぱ、お花が入ったやつ。


いちばん可愛いって思ったのを選んだ。

まおちゃん、チョコの味の違いとかわからなさそうだし。

これなら可愛いし目を惹くから、まおちゃんは写真を撮るはず。

そうしたら、わたしとの思い出として、まおちゃんのスマホのアルバムにずっと残る。


見て回っている間は隣にいたけど、会計まで一緒にしていたら時間がかかるからと少しだけ離れたお母さんを探して歩き回る。

確か、こっちに行ったはず。

向こうよりも混み合っていて、たぶん時間もかかるはずだから、少し離れた場所で待つことにして、ベンチや自動販売機がある所へ移動する。

ベンチには座らずに、一応目だけでお母さんを探すと、レジの列の真ん中に辺りに並んでいるのを見つけた。