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週末の学校帰り、お母さんと普段は行かないようなデパートに寄った。
学校に行くときは必ずお母さんに着いてきてもらうから、帰りはいつもどこかに寄るんだけど、こういうところに来るのは何年ぶりだろう。
まおちゃんのことを言えないくらい、普段ジャージだとかスウェットしか着ないわたしにしては珍しく、ちゃんとした格好のせいもあってずっと緊張してる。
コスメカウンターで顔見知りのBAさんと話してるお母さんのそばでチョコレートをテーマにしたコスメをじいっと眺める。
香りまでチョコレートだというリップに見入っていると、お母さんが同じものを見て何だか嬉しそうに首を傾げる。
「つけてみる?」
「え、いい。やだ」
「そんなに拒否しなくても」
お母さんの横にいるBAさんも結託しそうな予感がして、さっさとその場所を離れると、残念そうな声を出したお母さんが早足で追いかけてくる。
「いいじゃない。リップくらい。さっき学校にいた女の子、化粧してたよ?」
「知らない。見てないし。いらない」
拒否の言葉を一様に並べると、お母さんはそれ以上言及せずにわたしの向かう先に付き合ってくれた。
何もコスメを見に来たわけじゃない。
バレンタインに向けてのリサーチだ。
絶対に人でごった返してるから、乗り気ではなかったけど、土日に来るよりは動きやすいと踏んで、金曜日の昼下がり。



