「ん、チョコちょうだい」
「なに、怒った?」
笑い堪えてるみたいな顔するな、ばかおる。
さっきまおちゃんに半分分けたときに残りの半分はポケットに入れていたらしく、チョコレートが入ったビニール袋ごと渡される。
ふん、と鼻を鳴らして部屋に入ろうとすると、背中に声がぶつかってきた。
「わりと本気で言ったんだけど。眞央に姉ちゃんは勿体ないよ」
「あっそ」
怒ったわけじゃない、悲しかったわけでもない。
たぶん、すごく感情のこもらない返事をして、部屋のドアを内側から閉める。
薫から見たわたしがどんななのか、まおちゃんがどんななのか、そんなの知らない。
主観よりも薫の目線での話にもたまには耳を傾けるべきだと思ってる。
薫がバレンタインのこと、わたしに聞いたみたいに。
だけど、まおちゃんがわたしには勿体ないなんて。
嬉しくないよ、そんなこと言われても。
どうしたってまおちゃんには彼女がいる。
バレンタイン、渡していいよって言われたくらいで舞い上がることじゃないし。
去年までは当たり前だったことを今年は確認しなきゃいけないような気がしたから、聞いただけのこと。
薫、あのね、そんなことを言うのならね。
わたし、勿体なくてもいいから、まおちゃんが欲しかったよ。



