きっともう好きじゃない。



「おやすみ。和華、薫」


言い残して、まおちゃんは自分の家に入っていった。

ガチャンって鍵の閉まる音までしっかりと聞こえたところで、また薫がぼそりと声を発する。


「姉ちゃんさ、なんで眞央なん?」


「ちょ、ここ外!」


「いや、もう眞央いないし。つか、姉ちゃんのが声大きい」


しーっと歯の隙間から音を出す仕草、弟にされると何とも言えない気分。

思いっきり顔を歪めてやると、軽く足の脛を蹴られた。


「あいつより良い奴、探せばいっぱいいるよ」


「探す気ないもん」


「姉ちゃん可愛いんだから、その気がなくても外歩いてたら曲がり角で出会うって」


「食パンくわえて?」


「ぶはっ、うん、そうそう」


ツボに入ったのか、ひいひいと笑いながら玄関のドアを開けた薫がわたしを先に入るように促す。

明かりのついたリビングからはお父さんとお母さんの笑い声が聞こえた。

突き当たりを目指して廊下を進み、互いの部屋の前まで来たところで、バッと薫を見上げる。


「可愛い!?」


「おっそ。すぐ言い返してこないからこいつマジで自意識過剰って思ってたわ」


「ああ……お世辞ね。ジョークね。かおるのがタチ悪いっての」


深く考えていなかったけど耳には入っていた言葉がようやく脳に追いついた。

時間にしてみたら、一分は経たないけど30秒は過ぎてたな。

え、わたしの耳から脳みそへの回路、だいぶ捻れてない?