きっともう好きじゃない。



声も出せずに、じりじりと後ずさっていると、まおちゃんの肩が揺れた。

喉の奥を鳴らすような笑い方のあとで、肩越しにこちらを振り向く。


「おいで、和華」


1年前と変わらない、優しい眼差しで、わたしの名前を呼ぶ。

手招きをされているわけじゃないけど、逆らえないような妙な言葉の力があって、一歩踏み出しかけた足を思いっきり平手で叩く。


「ったぁ……」


びっくりしたのか、まおちゃんがぽかんと小さく口を開いてる隙に踵を返して突き当たりの部屋に駆け込む。

すぐに追いかけてくる足音がして、無駄だってわかってたけどドアの前に座って籠城しているつもり。


そんなことしてる間にも足音はすぐ後ろで止まって、ドアがずりずりと押されていく。

わたしがこうして待っていることがわかって、無理やりに激しく開けたりはしなかったんだろうな。

ずりりっと背中をせられてももう抵抗せずにいたんだけど、ふと机の上のものが目に入って、ハッと立ち上がる。


「うおっ!?」


その瞬間、ドアが限界まで内側に開いた。

ノブについてきたまおちゃんがフローリングの床にずべっと転がる。

顔はなんとかラグの上に届いて、鼻先をぶつけただけみたい。

声と音に驚いて横目にまおちゃんを見つつも、卓上カレンダーをひっくり返す。


「何してんのかなー? 和華チャン?」


後ろからがっしりと腕を掴まれて、肩越しに机の上を覗かれたら、もう諦めるしかない。

カレンダーはバレずに済みそうかな。

机の上に広げていた、あの二通の手紙のおかげで。