「後継なら聖女様の所の御子でも大丈夫ってこの前女官のおばちゃんが言ってましたよ?
魔力量も多かったって聞きましたし。」

きょとんとした顔でキャロルが返す。

あの女官余計な事を…とルシウスは舌打ちした。

「…それは私達の間に後継が産まれなかった場合の最終手段でしょ。」

「産まれそうにありませんしそれで良いんじゃないですか?」

事も無げに言うキャロルにルシウスは頭を抱えた。

産まれそうにないってその行為をしていないのだから当たり前だろう。

こいつは分かっていないのか。

それとも分かっていて言っているのか。

もしかしたらコウノトリが運んで来るなんてお伽噺を未だに信じているんじゃないかと思えてしまう。

「陛下?
大丈夫ですか?」

急に頭を抱えて黙ってしまったルシウスにキャロルが声をかける。

ルシウスがゆっくりと顔を上げた。

目が据わっている。

怖すぎる。

キャロルは正座したままヒッと悲鳴をあげて後退った。

「……分かった。
もう分かった。
ゆっくりなんてキャロルのペースに合わせてたらとんでもないって良く分かったよ。」

「へっ陛下?」

「ちょっと急ぎの執務終わらせて来るからキャロルは良い子にここにいてね。」

にっこりと笑顔で脅される。

何か吹っ切れた様な、だが禍々しい何かが背後から見え隠れしている。

キャロルは危険な何かを感じ逆らってはいけないとこくこくと頷いた。

ルシウスはキャロルの頭を撫でると塔から出て行く。

足早に執務室へ向かいながら急いで終わらせなければならない書類を思い浮かべた。

あれなら3時間程で終わるだろう。

執務室に戻ったルシウスは鬼気迫る表情でペンを走らせた。







『聖女様がダルース国で開発されたおミソなる物が欲しいと言っていたのでちょっと出掛けて来ます。』

ルシウスは事務机に置かれた羊皮紙をぐしゃりと握り潰した。

何がちょっとだ。

ダルース国には片道8日はかかるじゃないか。

ルシウスは額に青筋を浮かべながら叫んだ。

「ーっあんの馬鹿!!!!!」


優雅に船旅をしていたキャロルはその時寒気を感じたとか感じなかったとか。






子供達の間では今日もマリアヌ国の王妃と国王は仲が良いのか悪いのかという論争が繰り広げられている。