海猫が鳴き視界の端で魚の影が跳ねる。

海風に乗って潮の匂いが体を包む。

凪いだ海の水面に映る光が反射し眩しい程に輝いている。

キャロルは大きく息を吸い込んだ。

爽やかだ。

これぞ爽やかと言うに相応しい光景だ。

「おぼろろろろろろっ。」

…横で嘔吐さえされていなければ。

「…レオン大丈夫ですか?」

「だいじょ…うぼろろろろろ!」

レオンの顔から血の気が無くなり青を通り越して白くなっている。

因みにこれは船酔いではない。

だってまだ船に乗り込む前なのだから。

出発の前日に決起集会だ!等と言って1人だけしこたま酒を浴びるように呑んだ結果の二日酔いである。

自業自得以外の何物でもない。

乗船手続きをしている間にレオンは港で海に向かって吐いているのである。

汚い。

非常に汚い。

「キャロル…なんか二日酔い治す魔道具とかないのか?」

「ありませんよ。
むしろそれは魔道具開発者じゃなくて薬師や医者に言うべき事です。」

「だよなぁ…おろろろろろろ!」

船をあれだけ1番楽しみにしていたのにレオンはきっとベッドとトイレの往復になるだろう。

まあやっぱり自業自得なのだが。

「二人とも行くよ。
…レオン本当に大丈夫?
留守番するかい?」

「行くっ!
絶対行く…おぼろろろろろろ!」

「殿下、気にしなくて大丈夫ですよ。
ほらレオン、とりあえず船内のトイレまで吐くのを堪えろ。」

「おっおう…。」

4人は最初から毛躓きながら旅に繰り出したのであった。



キャロルは自分の個室に入り肩に掛けていた鞄を開ける。

中から真っ白な毛の塊が飛び出した。

毛玉である。

ペットの持ち込みは許可されているのだが魔獣は同行者の中にテイマー職がいないと許可されないらしい。

そこでこっそり鞄に詰めて運んだのである。

毛玉はキャロルのベッドに乗りさっそく枕に顔を埋めている。

この枕への飽くなき執念は一体何なのだろう。

そもそもホーンラビットというれっきとした魔獣の癖に何故枕を使って寝るのが当たり前になっているのだ。

やっぱりこいつはホーンラビットらしくない。

「毛玉。
部屋から絶対出ちゃダメだからね。」

キャロルが一応注意するが毛玉は既に枕に頭を乗せ腹を出して寝る体勢に入っている。

2度寝の時間らしい。

キャロルは溜め息を着いて部屋を後にした。