「あ、琉羽! おはよう」
授業は始まっておらず、菜月が声をかけてきた。
「どうしたの? 顔、赤いよ?」
「あ、うん……慎太郎がね、助けて……くれて……わたし……っ」
もう、ダメだ。隠しきれないよ。
無理だよ……誰かに言いたい。
「慎太郎の、ことが……めちゃくちゃ、好きみたい……っ」
言ってるうちに胸が苦しくなって涙が出てきた。
とめどなくこぼれ落ちて、教室で人目もあるというのに、止まらない。
「ちょ、琉羽? だ、大丈夫? とにかく、ここ出よっ」
みんなの視線を一斉に浴びるわたしの手を引いて、菜月は教室から連れ出してくれた。
連れて来られた場所は屋上だった。
その間も涙が止まらなくて、わたしはひたすら静かに泣いた。
「井川くんのことが好きなの?」
「うん……っ、でも、言えないの」
「どうして? 井川くんも琉羽のこと」
「知ってる、告白されたから……でもね、理由があって、言っちゃダメなの……わたしが好きだって言うことで、慎太郎を傷つけてしまうことになるから……っ」
だから苦しい。こんなに好きなのに。言ってはいけないなんて。
自分で決めたことなのに、どうしようもないくらい苦しい。
セーターの袖で涙を拭う。
菜月はそんなわたしの背中を優しく撫でてくれた。
「どうして傷つけることになるって思うの?」
「それは……言えないっ。でも、確実にそうだから……っ。慎太郎には、わたし以外の人と……幸せになって……ほしいのっ」
言っているうちにまた涙が出てきた。
わたしって、こんなに涙脆かったっけ。
弱かったっけ。
こんな自分がすごく嫌だ。
「あたしだったら、気にせずに伝えるんだけどな……」
「……っ」
「でも、琉羽はそうできないんだね。優しいな。好きな人のためを想って、身を引くって……」
菜月の声がだんだんと小さくなっていく。
「だけど、ツラいよね。苦しいよね……その気持ちは、よくわかるよ」
「な、つき……っふっ、ううっ……ひっく」
「いいよ、思いっきり泣いて。気が済むまで泣いたら、スッキリするから」
菜月は詳しく聞いてこなかった。
なにも聞かずにただずっと背中をさすってくれて、その優しさに余計に涙があふれる。
「なつ、き、ありが、とう。こんなわたしと、仲良くしてくれて……」
「ふふっ、なに言ってんの」
「急に伝えたくなったの……」
すっかり涙は止まっていた。
菜月の目を見てぎこちなく微笑む。
「ほんとに、ありがとう……幸せになってね」
わたしがいなくなっても、悲しまないでね。
「なんだか今日の琉羽は、おかしなことばかり言うね」
「うん、たまにはね……本当に、幸せになってよね。わたし、祈ってるから」
「もう、ほんとやめてー。なんだかいなくなっちゃうみたいで怖いから」
「ふふっ、うん。ごめんね」
ごめんね……本当に。
菜月の言う通り、いなくなるんだよ、わたし。
「なんだか泣いたらスッキリしちゃった。授業、サボらせちゃってごめんね」
「なに言ってんの、友達が泣いてたら話を聞くのは当然だよ!」
笑って許してくれる菜月。
その笑顔は最高にかわいい。
もうこれで思い残すことはなにもない。
そう……なにも。



