私、藤田 杏は最高に幸せです。


「沙織ーおはよう!」


教室に入るなり、親友の沙織に抱きつく。


「なに、杏……朝から会えた?」


「うんうん!校門入ったら、ちょうど職員玄関に向かってて『おはよ』って言ったら『はよー』って!」



たったそれだけのこと。



人として常識の挨拶。





たった一言の挨拶でも、朝から一目見れただけでも私の心臓は、ドキドキ鳴って、幸せな気持ちになる……。


恋……しちゃったんだ……。


何でもなかった毎日がキラキラして。


何でもなかった景色が色鮮やかに見えて。


そして――――


自然に笑顔が出るようになって……。




私が恋する相手は、数学の先生。



佐伯 剛志先生……。



産休の岡先生の代わりに来た、臨時教師。



佐伯先生は、24歳。

数学の先生なのに、PUMAのジャージを着ている。

サッカーが見るのもプレイするのも大好き。

応援しているチームが勝つと授業のあと、嬉しそうに話す。




先生のこと、少し知れるだけで、特別な生徒になれた気がして、嬉しくなっちゃうんだ。



もっともっと、先生の話が聞きたい。



一秒でも、一緒に居たい。



私の全てが、そう叫ぶ。




私の全てが、貪欲にそう望む。