彼女の足元に置かれたその花を遠くから見れば、小さな蕾を覆うように淡いピンクや白のふわふわとした花びらをつけた花が何本もあり、ビニール製の堤にまとめられていた。


―あれは、なんの花だったっけ。不思議と懐かしいような……。


はっ、と我に返った男は再び視線を花から橋に佇む彼女に戻す。

遠くから、でもまじまじと彼女を頭から足先までよく確認した後で、男は確信を抱く。


―よし、合ってる。

男は手に持ち続けていた1枚の花びらをそっと手から離して、ふぅ、と息を吐き出す。


「…そろそろ時間、かな」

自分にしか聞き取れないくらい、男がボソリとそう呟いたのとほぼ同時に、橋の上に立っていた彼女の体がグラリ、と前のめりになる。


男はそんな様子の彼女に慌てる様子もなく、…むしろ口元に笑みさえ浮かべて右手を顔の前へと持っていき小指を出してそっと口元に持っていく。ふっ、と小指に息を吹きかけ、そして呟く。



「…さァて、僕の番かなァ」