「ママ‼︎ママってば‼︎…もういい‼︎ママなんて知らない‼︎」



私の座るベンチの少し先。



さっきからずーっとあの調子。



ママと呼ばれる女性はスマホに夢中。



女の子は持っていたバッグを落としてみたり、乗っていた自転車の後ろから飛び降りてみたり。



赤の他人の私にはどうすることもできないけれど。



すこし女の子が可哀想になってくる。



「もういい‼︎ママのバカ‼︎あたしかえる!」



そう言って落ちたバッグもそのままに女の子は私の方へと向かってくる。



母親はまだスマホに夢中だ。



女の子は私の横を通り過ぎ、そのまま敷地を出て本当に家に帰ろうとしているらしい。



『危ない‼︎』



女の子に向かって走ってくる車。



考えるより先に体が動いた。



女の子を抱き寄せると同時に鳴り響くクラクションの音。



遠くで母親がこちらを向いた。



「おねぇさん大丈夫?」



女の子の問いかけに笑顔で頷いてみせる。



「ありがとう…あと、ごめんなさい」



ありがとう。



ごめんなさい。



そう言えるなんていい子だ。



女の子の頭をポンポンと撫でて『大丈夫』だと伝えた。



女の子の後ろには、慌てて駆け寄ってきた母親がいる。



私は女の子をくるっと回して、母親の方を向かせた。



母親の姿を確認すると、駆け寄り抱きつく女の子。



あるべき姿に戻った気がした。