リンネが自室に戻ったあと、侍女のマリアが大量の糸を持って部屋に入ってきた。その糸をよく見ると、レースであり、言われなくともこれでレース編みをしなさいという魂胆がわかった。

「リンネ様、こちらのレースを婚姻までに全て編みきるよう王妃様から言伝てを頼まれております。
何を編むかはリンネ様が決めてよろしいとのことです」

感情を一切感じさせることなく、機械的に話したマリアに対してリンネはなんとも言えない不快感をおぼえ、渡されたレース糸を投げつけた。
マリアはリンネが幼いときからの侍女であり、彼女からはいつも感情が読み取れないということは重々承知していた。いつもならばなんとも思わないのだが、この時ばかりはそれがどうしても許せなかったのである。

レース糸を投げつけられたマリアはまるで何事もなかったかのように全て拾い、籠に戻した。そして籠を近くのテーブルの上に置くと、「何かございましたらこちらのベルを鳴らしてください」とだけ告げ、部屋を出ていった。

マリアが部屋から出てくるのを待っていたかのように、リンネの部屋の鍵は外から施錠された。その日リンネは自分の部屋で軟禁状態になったのだった。