夕食も終わり、後はエリックとソフィアが帰るだけとなったとき、リンネはエリックを呼び出した。

「あのね、明日の御者はシャンドン侯爵家の御者にしてほしいの。えっと名前は…ハ、、」

「わかってるよ、ハリスだろ?
それで馬車を引くために使う馬はあの栗毛の馬と俺の黒い馬だろ?
王宮から少し離れたところで馬車から馬を離して、馬具をつけて街に行きたいっていうんだろ?馬具はまた俺の家から持ってくるからリンネはいつもよりも動きやすいドレスを着て待ってろ。
でも乗馬用のドレスは着るなよ?行く前にばれてしまったらもともこもないからな」

リンネは「さすがわかってる」とエリックにハグをしながら耳元で伝えた。
最初、急に抱きついてきたリンネに驚いたエリックだったが、ふたりがいた応接室にソフィアとリンネの母親が入ってきたからだとわかると、エリックもリンネを抱きしめた。

「リンネ、俺は明日の9時頃までにはここに来るから起きて、準備も終わらせて待っていろよ」

「はい、エリック様!
また明日、お待ちしておりますね。
それではおやすみなさい」

リンネは膝を折ってエリック達を見送った。
ふたりが出ていくと、隣にいたナターシャがリンネに声をかけた。

「仲が睦まじいのはいいことですが、あんまり外では貴女からエリック様に抱きつくことはやめなさい。
貴女がエリック様のことを愛しはじめているのはなんとなく見ていればわかるわ。
でもやはり、外ではね……」

「ごめんなさい、お母様…
今後は気を付けますわ…

私は明日のために早く休みたいので、もう部屋に戻らせてもらいますね。
おやすみなさいませ、お母様」

リンネはまるでその場から逃げるように出ていき、部屋に戻った。
先程のハグは本当はばれてはいけないことを話していたのを誤魔化すためのものであったとは決していうことはできなかった。

エリックは最初は嫌な人だと思っていたのだが、今ではいろいろ今となってはできないことをさせてくれるまるで悪友のようだなとリンネは思っていた。