婚姻した相手を自分のものにできないということは、男性にとって最上級の屈辱ともいえる。
ひとりの女性を扱えない人が、一人前に国政に関わったり、店などを経営できるはずがないと周囲から後ろ指をさされてしまうからである。

リンネがまだ幼かった頃は、少しおてんばだなと周囲から思われる程度であった。しかしそのおてんば具合に歯止めがかかることはなく、どんどん扱いづらくなっていた。今では、男性達が国政について議論しているのを廊下から盗み聞きし、国王に直接自分の意見を言うほどになっていた。

さすがにこのままでは娘が行き遅れてしまうと焦っている国王夫妻はリンネを国王の執務室に呼び出した。

リンネは執務室へ入ると国王に向かってカーテシーをした。
その様は何も知らなければ立派な淑女と思われるほど、しっかりとしていた。

「リンネ、顔をあげなさい。
私たちはもう我慢ができない。

リンネ、お前にはシャンドン侯爵の長男、エリック・ドゥ・シャンドン次期侯爵と婚姻を結んでもらう。
婚姻は4ヶ月後だ。これからは部屋でレース編みなどをするように。
くれぐれも国政に口出しをしないように」

「嫌です!
私は他の女性のように…」

「話は以上だ、下がりなさい」

国王はリンネが反論することを許さなかった。執務室から出ようとしなかったリンネは部屋の外にいた騎士に連行されるがごとく執務室を後にした。

リンネが連れ出されたあと、国王夫妻はため息をついた。それはまるで、リンネが嫡男だったらどんなによかっただろうか、と言わんばかりのものであった。