アッサム地域は昼間でも暗い雰囲気が漂うような場所であった。
周囲の状況に細心の注意を払いながら、リンネは奥へと進んでいった。
強盗に及んだ男達の容姿をしっかりと聞いていなかったことに、リンネは若干の苛立ちを隠せなかった。

迷路のような路地裏を進んでいると目の前を小走りで逃げていく男達を見かけた。
きっとこの人たちに違いないと感じたリンネは男達のもとへ馬を走らせた。

「待ちなさい!」

誰かが自分達を追ってきたと一瞬怯んだ男達ではあったものの、それが女性であるとわかった瞬間、態度を変えてリンネに接してきた。

「ここはお嬢ちゃんの来るようなところじゃねぇ。
それにいい身なりをしてるな、お前からも何か奪ってやる!」

男達は三方から馬に近づいてきて、あっという間にリンネを馬から引きずり落とした。
リンネはドレスの返しの部分に隠していた短剣を取りだし、男達を威嚇した。

「今なら、私を襲ったことの罪は問わないでおいてあげる。
その場にしゃがみなさい!」

「そんなにかわいらしい声で言われてもちっとも怖くなんかねぇや。
その身に付けている宝飾品を置いていってくれるなら、見逃してやってもいいんだぜ?」

リンネは「あなた達に屈することは決してない」と強く告げ、目の前の男に近づいていった。

「ごめんなさい、宝飾品を置いていくことはできないけど私だけ見逃してくれないかしら?」

先程までとの声質とは全く異なった甘味のある声でリンネは男に言い寄った。
すると目の前の男は「一回俺にキスをしたら見逃してやる」と言い返した。
リンネは目を瞑るように男に言い、男が完全に目を瞑ったのを確認したあと、持っていた短剣で男の腕を刺した。

突然の出来事に目の前の男も他の男も何が起きたのか理解できなかった。
しかし、腕から血を流し崩れ落ちた男を見て、他の男達は後ろから襲いかかろうとした。

リンネにとって後ろから攻撃されるであろうことはわかっていたので、何とも思わなかった。
自分の間合いに残っているふたりの男が入ると、リンネは後ろを振り向きながら廻し蹴りをした。
振り向くという動作が加わったためにさらに威力を増した廻し蹴りは男達の急所に見事にあたった。