恭介の手にはカッターナイフが握られている。


今度はあれで切り刻まれるのか……。


「優奈……どうするの?」


「行くしかないでしょ」


便器を舐めるなんて、まるでイジメだ。


いや、いままでのことだってイジメそのものだ。


そう考えた時、一瞬記憶の奥にひっかかるものがあった。


恭介の声をその記憶がリンクする。


『やめてくれよ……!』


泣き叫ぶ男の顔が浮かんで、そしてすぐに消えてしまった。


「優奈、どうしたの?」


「今、なにか思い出しそうだった」


そう言い、こめかみに手を当てた。


思い出したのはほんの一瞬で、その記憶は再び奥底に眠ってしまったようだ。