お父さんたちと別れて数日、私はおばあちゃんの家の縁側でごろごろと惰眠を貪っていた。開け放った扉から吹き込む風は心地良く、チリンチリンと頭上の風鈴が涼し気に鳴る。
からりとした晴天は冷房や扇風機の必要性を感じさせない。もくもくと盛り上がる入道雲を遠目に見据えながらかき氷が食べたいなとぼんやり思う。実はかき氷のシロップはすべて同じ味であると知ってからも、ラムネ味のシロップは私の中では不動の一位である。甘くて、さっぱりとしたあの味はこの暑い日に食べるとより一層おいしく感じることだろう。
ゴロリと、仰向けに転がり首元に手を当てる。熱が籠っていてもひんやりとした指先は心地が良い。人より体温の低い私はここぞとばかりに保冷剤のように扱われるが、今ばかりは自分一人で堪能して良いだろう。
生温くなった廊下をゴロゴロと転がりながら冷たい場所を探る。ひんやりとした新たな寝床も、数分後には生温くなってしまうだろう。やはり冷房くらいは必要かもしれない。
「こんにちはー、ばあちゃんいる?」
網戸が閉まっているだけの玄関に誰かお客さんが来たようだ。聞き覚えのある元気な声が響く。
ちらりと覗いてみるとふわふわした頭が中の様子を探るように動いていた。ぼんやりとそれを眺めていると、くりくりとした目がこちらを向いた。気付いたようだ。
「沙耶じゃん。まだいたんだ」
もう帰ったのかと思ってた、と家の中を探るのは諦めたのか、庭を横切って縁側までよってきた。都会で許可もなく庭に入ってくると厭われることのほうが多いだろう。古き良きコミュニティーだ。
「久しぶり」
「あぁ、ばあちゃん今いないのか?」
「買い物に行ってるよ。もう少しすれば帰ってくると思うけど」
「そっか。じゃあこれ、渡しといてくんね。回覧板。今度の祭りのこととかいろいろ。あ、沙耶も祭り来る?」
「わかんない。おばあちゃんに聞いてみないと。場所もわかんないし」
祭りなんてやっていたのか。面白そうだな、おばちゃんと一緒に行くのも悪くはないかもしれない。お父さんにも楽しめって言われたし。話してみようかな。
「じゃあ俺と一緒に行く?そんなにおっきい祭りじゃないけど花火も上がるし結構人集まるんだ。盛り上がるぞ」
二カッと歯を出して笑う。眩しい。何がって、逆光が。デジャブだ。
「うん、おばあちゃん帰ってきたら確認してみるね。わかり次第連絡…んと、家、行ってもいい?」
「もちろん。基本的に暇してるし、いつでも来てよ。」
それからしばらく他愛もない話をして佑太は帰っていった。祭りか。おばあちゃんと行くのも悪くはないけど、佑太と行くのも楽しそうだ。どちらにせよおばあちゃんには許可を貰わないといけないけど。
早く帰ってこないかな、おばあちゃん。