きょろきょろと、見覚えのある風景を見渡しているうちにどうやら目的の場所、つまるところ私のおばあちゃんの家に着いていたようだ。

「さて、沙耶のゴールはここで間違いないかな」

「うん、ありがとう」

「いいえー、小さい集落だし、みんなご近所さんみたいなもんだから。俺の家もこのすぐ裏でさ、ここのばあちゃんにはお世話になってんだ。何か困ったことでもあったら遠慮なく来てよ」

じゃあ、と言い残して佑太は帰っていった。


家に入ると、両親とおばあちゃんはそれなりに心配していたようだ。

「もう、あんたどこ行ってたのよ。連絡取ろうにも携帯は家にあるし迷子にでもなったんじゃないかと思ってたのよ」

「まあいいじゃないか、こうしてまだ日も高いうちに帰ってきたんだから。それにしても沙耶、携帯はちゃんと持っておかないと役目を果たしていないだろう?いざという時に連絡が取れないんじゃあ意味がない」

「ごめんなさい、少し散歩をしようと思って。すぐに戻るつもりだったの」

「ふふふ、無事でよかったよ。何もないとは言え、暗くなると危ないからねぇ」

ふと時計を見ると家を出てから三時間近く経っている。自分が思っていたよりも時間の経過は早かったらしい。

「ごめんない」

「いいのよ、もう。さて、じゃあ私たちはもう行くから。ちゃんといい子にしてるのよ。お義母さん沙耶をお願いします」

「もう、小さい子供じゃないんだから言われなくてもいい子にしてるわよ」

「ほら、早くしないと遅れるぞ。じゃあ母さん、よろしくな」

「ええ、ええ。沙耶ちゃんは私に任せて、夫婦水入らず楽しんでらっしゃいな」

「夏休みの終わりには迎えに来るから、お前ものんびり楽しんでおけよ」

「うん、じゃあ」

こうしてお父さんたちは忙しなく小さな車に乗り込んで出発していった。随分と久しぶりに長期休暇が入ったと嬉し気に報告してきたお父さんに二人で旅行にでも行ったらどうかと提案したのは私だ。

私は一人家に残るつもりだったが、心配した両親がおばあちゃんの家まで連れてきてくれたのだ。連絡は頻繁にとっていたが実際に会うのはもうどれくらいぶりであるかも定かではない。

「相変わらず仲がいいのねぇ。ふふ、沙耶ちゃんも大きくなって。見違えたわ」

今日のご飯は何にしましょうかねぇ、と奥に入っていったおばあちゃんに続き、私も奥に入る。

あまりなじみのない場所で一か月近くを過ごすと聞いて最初は少し不安があったけれど、今はなんだかワクワクしていた。この先一か月、いったい何があるのだろうと、つい口元が緩んでいたが私がそのことに気づくことはなかった。