どのくらい眠ったのだろう。そんなに眠っていないような気もするし、そうじゃないような気もする。とにかく私は、揺さぶられるような感覚で目が覚めた。

「…」

「あぁ、生きてた。よかった、暑さでぶっ倒れたのかと思った」

「誰」

私の顔を覗き込むようにしてこちらを窺っているいるのは、その声からしてどうやら男のようだ。ちょうど正面にある太陽のせいで逆光となり顔までは窺い知れないが私とあまり年は変わらないのではないだろうか。

「はは、ごめんごめん。眩しそうだね、大丈夫?」

「あまり大丈夫ではないかもしれない」

差し出された手に捕まりながら起き上がると、目前の青年は屈託なく笑う。

「あまり見ない顔だけど、もしかして迷子?」

「そうみたい」

クスクスと笑うのに合わせてふわふわの髪の毛が揺れた。

「そうみたいって、君面白いね。送ってってあげようか」

「そうしてくれると助かるんだけど、どこから来たのかわからないの」

「そうじゃなかったら迷子になんてならないんじゃないかな」

色素の薄いまんまるとした目が楽しそうに弾む。なんだか馬鹿にされているような気もするけれど、嫌な感じはしないから黙っておく。

「送ってって、くれるんでしょう?」

「うん、送ってってあげるよ。んーと、名前、聞いてもいいかな」

「橋本沙耶」

「橋本、橋本かぁ、もしかして裏のばぁちゃんのところかな」

「そう、おばあちゃんの家に遊びに来てるの。わかる?」

「うん、たぶん大丈夫だよ、さて行こうか」

向こうに自転車があるんだ、と先に歩きだした青年についていく。数メートル川を下ると人一人が辛うじて通れるほどの道ができていた。先ほど自分が通った場所に比べると格段に歩きやすい。抜け道があったのかと、少し驚く。

見覚えのあるような道に出ると、確かに自転車があった。

「あの、」

「あぁ、九条佑太だよ。よろしく」

「ん、よろしく。佑太君は…佑太は、この辺に住んでいるの?」

佑太でいいよ、と指摘を受けて訂正したけれど、佑太はいくつなんだろう。もし年上だったりしたら、失礼にならないかな。まぁ、佑太君でも失礼には当たりそうだけれど。

「そ、生まれも育ちもずーっとここ。何もないところだけど、いいところだろ?気に入ってんだ。沙耶は、あ、沙耶でいい?今幾つなの?」

「18。佑太は?」

「あー良かった、俺も18。年上だったらどうしようかと思った。あまり敬語を使わないからよく怒られるんだ」

大袈裟に息をつく佑太に少し可笑しくなりながら、相槌を打つ。確かにこれから社会に出ていくには気を付けたほうがいいかもしれないけれど、フレンドリーであるともとれるし、一概に気を付けなければいけないというわけでもないような気がする。

まぁ、そこまでは言わないけれど。

「沙耶は今夏休み?」

「うん、だから久しぶりにおばあちゃんに会いに来たの。んー、何年ぶりだろう」

「あぁ、それで。こっちにはあまり来ないんだ?」

「お父さんたちも忙しいみたいだし、ちょっと遠いから」

佑太と話していると思ってたよりも時間が経っていたみたいで、ちらほらと家が見えてきた。もしかすると自分が遠くに来たと思っていただけで同じところをぐるぐると歩いていただけなのかもしれない。