ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています

レオンは私を真っすぐ見つめて言う。

「ルメールでイリスと過ごした日々は俺にとってかけがえのない時間だ。その時間で培ったイリスへの想いは何が有っても消えたりしない。イリスが俺を心から拒否しない限り諦めたくないんだ」

真摯に見つめられると、私の心は彼を誤魔化すことなんて出来なくなった。

「わ、私もレオンを忘れたことなんて無かった。幼い頃の思い出も全て大切で……本当はレオンと一緒に居たかった」

心からの想いを口にすると、再びレオンの胸に引き寄せられた。

「イリス。二度と四年前のような辛い思いはさせない。不安は俺が取り除く。だからリラと一緒に俺の元に来てくれ」

レオンは耳元で囁くと私を強く抱きしめた。

まるで、拒否の答えは受け付けないとでも言うように。

ふたりの距離は近くて、早鐘を打つ彼の鼓動を感じる。

きっと私も同じようになっている。

どうしよう……どうしたらいいの?

レオンと離れたくはない。だけど私はもう母親になったのだ。

自分の気持ちだけで決断は出来ない。

けれど……レオンに笑顔で駆け寄るリラの姿が脳裏に思い浮かんだ。

リラはレオンが父親だと本能的に察しているのだろうか。彼をとても好いていて、まるで普通の親子のように懐いている。

そんなふたりを私が引き離していいの?

レオンはリラの父親だ。私だけの判断でこれから進む道を決めるなんて本当は許されないことなのだ。

かといってレオンの望み通り王宮に入ったあと、無事に暮らしていけるとは思えない。

伯爵家の令嬢だったソフィア様ですら身分の低さで苦労したのだ。

私などが皇帝の妃になるのを、周りが受け入れるはずがない。

頭の中を沢山の考えが浮かんでは消えて行く。私の葛藤に気付いているのか、レオンは再び囁いた。

「俺にはイリスとリラが必要なんだ」

切ない声音を聞いて、胸がぎゅっと切なくなった。

誰よりも好きな人を私は苦しめてしまっている。

否だなんて言えなかった。

「もう少し時間をちょうだい? 今は私も混乱しているから答えが出せない。でも前向きに考えるから」

これが今の私の精一杯の答えだった。

それでもレオンは輝くような笑顔になった。

「ありがとう、イリス。本当に嬉しいよ」

レオンは私の身体を閉じ込めている腕を緩めた。

少し距離が開き、お互い至近距離で見つめ合うような恰好になる。

気恥ずかしくて目を逸らそうとしたけれど、レオンはそれを許さず、唇を重ねて来た。

「愛している、今も昔もこれからも……イリスだけを愛してるよ」

耳元で囁かれ甘い言葉にときめいている内に、もう一度唇を重ねられる。

段々と深くなるそれに陶酔して私は何も考えられなくなる。

彼の求めに応じるように、背中に手を回し縋りついた。