ママと秘密の赤ちゃんは、冷徹皇帝に溺愛されています

「どん底ってどうしてなの?」

「ルメール村に住むのが不本意だったからだ。前皇帝と母の命令だから逆らいようが無かったが本当は生まれ育った帝都から離れたくなかった」

「でも、帝都から出ないと継承争いに巻き込まれる恐れがあったのでしょう?」

だから帝都の噂もなかなか届かない地方のルメール村に来たのではなかったの?

「危なくても逃げ出したくなかったんだ。母は父に望まれて側室になったが身分の問題でその地位は低く宮殿でも辛い目に遭っていた。せめて俺は側に居て助けになりたいと思ったんだ。でも実際は何の役にも立てず安全な場所に送られた。更に空しいのは俺が帝都を出るとなっても誰も見向きもしないことだった。皇帝の子として数に入れられてないどうでもいい存在だったってことだ」

その言葉で、初めて会ったとき彼は俺と仲良くなっても何の得もないと、まるで自分を卑下するように言っていたのを思い出した。

当時は意味が分からなかったけれど、あの言葉にはレオンの悔しい気持ちが込められていたんだ。

「私、全然知らなくて……ごめんなさい呑気に友達になりたいなんて付きまとって」

思い悩む彼にとって私の能天気さはうんざりするものだっただろう。そう思ったけれどレオンはすぐさま否定してきた。

「いや、確かに初めはそんな気分じゃなかったが、直ぐにイリスとの出会いを感謝するようになったよ」

「感謝?」

「ああ、イリスのおかげで見知らぬ土地に来た心細さを感じる暇なんて無かったし、帝都への未練に苦しむこともなかった。一緒にいることが当たり前で、それを幸せに感じるようになっていた。帝都に戻ることを考えるより、ルメールで生きて行く未来を考えるようになっていた」

過去のレオンの様子を思い出す。

確かに出会って直ぐの頃の彼は周囲に壁を作っていて、誰に対しても警戒心を持っているように見えた。

でもそれらは段々と消えて行き、自然で優しい笑みを見せてくれるようになったのだ。

私はそれが凄く嬉しくて、ますますレオンが好きになった。