「陛下……先ほどから公爵様の姫君がお目通りを願いたいと再三訴えております」

「ああ、分った」

レオンは笑顔を引っ込め頷くと、私にリラを預けた。

「行って来る。イリスとリラは馬車で待っていてくれ」

「……うん」

分かったと言うとすると、リラが無邪気に言う。

「リラはレオンといっしょにいたい」

「今から仕事をしないといけないんだ。リラはママと一緒に待っていて欲しい」

「リラもおしごとする」

レオンは困った顔になる。

「リラはまだ子供だろう? 子供はお仕事、出来ないんだ」

「そうなの?」

リラはきょとんと首を傾げる。

どうも納得していないようだけれど、どうしてこんなに拘るのだろう。

レオンがパパと分かったから少しでも一緒にいたい?

そうだとしてもこれ以上は迷惑をかけられない。ちょと可哀そうではあるけど、今は我慢して貰おう。

「リラ、ママと一緒にお外で待っていよう?」

「えーやだよ」

「ママと一馬車でお話しようね」

私はそう言い、珍しくぐずるリラを抱いたまま部屋を出ようとする。

そのとき、耳を突きさすような大きな音が聞こえて来た。

「きゃあ!」

何かが割れたような音だった。びくりとしてリラを庇うようにぎゅっと抱きしめる。

「何事だ?」

レオンが険しい声を出すと、応えるように部下の騎らしき声がした。

「姫君の護衛が扉をこじ開け様としています」

護衛って、オリーヴィア様と一緒に私を訪ねて来た長身の男性だろうか。

向けられた鋭い視線を思い出し、私は無意識にレオンに寄り添った。

それに気づいたレオンが優しい声を出す。

「イリス大丈夫だ」

「……オリーヴィア様の護衛の人凄く強そうで怖かった。レオン気を付けてね」

素直に気持ちを伝えると、レオンは眉をひそめながらも「大丈夫だ」と頷き、それからカイルに合図を送って呼び寄せた。

「イリスとリラを馬車に連れて行き、そのまま護衛をしてくれ」

「畏まりました」

レオンに従いカイルが私を外に出るように促す。

リラはしつこく抵抗していたけれど、私はカイルに付いて部屋を出た。

物騒な争いを幼いリラには見せたくないし、レオンも同じ気持ちだろう。