しばらく茫然としていた私は我に帰ると、弾かれたように部屋を飛び出した。

「リラ!」

病室への渡り廊下を走りぬく。

息も絶え絶えに辿り着くと、先生と何かお話をしていたリラがきょとんとした顔で迎えてくれた。

「ママ、どうしたの?」

「リラ……良かった」

ほっとして身体から力が抜ける。

この病院内でオリーヴィア様が何かするはずはないけれど、そんなことも考えられないくらい、私は動揺していたのだ。

リラの小さな身体を抱き締める。

お菓子を食べていたのか、甘い香りがした。

まさかクッキーを? どきりとして、リラの肩を掴む。

「リラ、何を食べたの?」

「チョコだよ」

「チョコ?……そう……」

慌ててしまったけれど、考えてみればこの病院で毒を飲まされる訳がないんだ。

「ママどーしたの? なんかへん」

「何でもないよ」

リラの無垢な顔を見ていると怒りと悲しさがこみ上げて来た。

こんな小さな身体に毒を飲まされていたなんて。

どうして私は気付けなかったのだろう。

「ごめんね……ごめんね、リラ」

「ママ、どうしたの? ママ、泣かないで」

何も分かっていないリラは、一生懸命私を慰めようと小さな手で私を撫でてくれる。

ずっと一緒にいた、これからも一緒だと信じていたこの温もりを失うなんて信じられない。
けれど断ったらどうなるのだろう? 私ではリラを守る力がない。

「リラ……」

どうすればいいのか分からなかった。