ティオール王国に居た頃、どんなにゆっくりしても良くならなかったリラの体調が、カサンドラの病院に来て直ぐに良くなった。それはカサンドラに来てから毒を取り入れていないから。

最先端の医療技術を誇るこの病院で何日も検査をしていたと言うのに、いつまでも原因が不明のままで退院が許されない。

それは毒が原因だと知ったレオンが、私達を元の家に戻らないように閉じ込めていた。
再びリラが毒を飲まないようにする為に。

だけど、どうして?

どうしてレオンは私に話してくれなかったの? 誰がリラに毒を飲ませたの?

激しく混乱する私に、オリーヴィア様がとどめをさして来た。

「お分かりいただけたかしら? 何も知らず知る術もないあなたには皇帝の妃も、皇女の母親も務まりません。ふたりの為を想うのなら身を退くことです」

身を退く? ふたりから私だけ離れるの?

オリーヴィア様の美しい顔を見つめた。

権力の象徴のような豪奢なドレスに宝石が、とてもよく似合っている。

「私ならば、レオン様の娘に毒入りのクッキーを食べさせたりはしないわ」

自信に溢れた姫君は、私を蔑むように見据えている。

私とは何もかもが違う女性。ご自分で言う通り、あらゆる力を持っているのだろう。だけど……。

「……どうしてオリーヴィア様はそこまで詳しくご存知なのですか? 人を使って情報を集めたとしても詳細に知り過ぎているように思います」

レオンがリラのことを軽々しく人に話すとは思えない。

必要があって話したとしても、信頼出来る相手に限るだろうし、その相手が情報を売るはずがない。

そう考えている中、はっと気が付いた。

なぜ、毒がクッキーに入っていたと知っているの?

お医者様とレオンの会話を盗み聞きした人がいた?……いいえ、違う。

レオンも先生もリラが叔母の家でクッキーを食べていたことを知らない。だって私はその話をしていないのだから。胡桃のお菓子が好きでよく食べていたと伝えたけれどそれがクッキーとは言っていない。

だから詳しく知っているのは、リラに毒を飲ませた犯人だけではないの?

そう気付いたとき、私は信じられない想いで目の前の高貴な女性を見つめた。