そして訪れたライブ当日。
「結衣〜!」
「おまたせ」
「よし行こっか」
ライブ会場までは電車を乗り継いで2時間かかる。私たちはのんびり話しながら会場へ向かった。
「あ、私今日おばあちゃん家に泊まるから帰りは一緒じゃないけど大丈夫?」
佳奈のおばあちゃんの家は会場の近くにあると聞いていた。
「うん。大丈夫だよ」
「よし!ずっと楽しみにしてたんだ〜」
佳奈の顔からは幸せオーラが溢れ出ている。
「佳奈このバンドずっと好きだって言ってたもんね」
「うん!中一の頃から好きなの」
そう言いながら佳奈はバンドのライブ写真を眺めている。
友達の楽しそうな顔を見るのは好きだ。特に佳奈は自分の感情をありのままにさらけ出すタイプだった。
「そういえば夜天気崩れるらしいね」
「うん。そう言ってたね」
「帰る時降ってないと良いけど」
空を見ると曇り空。天気予報では夜中に雨が降り出すと言っていた。
「まぁなんとかなるでしょ」
「そうだね」
そこまで大きな心配もせず、私たちは心を躍らせながら会場へ向かった。



そして始まったライブ。
佳奈は目をキラキラさせながらステージを見る。私も同じようにステージを見る。
「あ、あの人...」
ステージの上でキーボードを弾く男の人。その人はどことなく先生と似ていた。
思い出すのは先生の笑っている顔。真面目な顔。悪戯な顔。ここに居ないのに思い出してしまうのはそれほど私の心を先生が占めているということなのだろうか...。
「ほんっと...バカだなぁ...」
「結衣?」
「ううん。なんでもない」
絶対に振り向かないと決めているのに心では気になっている。そんな自分が馬鹿に思えて仕方なかった。