久雅side


「可愛かったから...ねぇ...」
俺は一人になった資料室で小さくそう呟く。
もう少し踏み込んだことを言っても良かったが、なんて言ったら良いのかこの時はまだ分からなかった。そのため俺はてきとうに言葉を濁してしまった。
「いつになったら言えるのやら」
頭をかきながら廊下に出ると知ってる顔がいた。
「帰らないのか?広瀬」
「...遠野さんとなにしてたんすか?」
遠野に告白をしていた広瀬風磨。彼は俺を睨むように見ている。この様子では遠野のことは諦めておらず、そんな彼女と二人きりでいた俺に敵対心を感じているのだろう。
「資料の整理をしてもらってたんだよ」
「先生、なにかと遠野さんのこと見てますよね」
「そりゃまぁ生徒だから」
先生と生徒であって他には何もないという空気を出しているつもりだったが広瀬にはそれは伝わらなかった。
「女子生徒と二人きりになると変なふうに言われてしまうかもしれませんよ。最近そういうのうるさいし」
「そりゃご忠告どーも」
「まさか生徒に対してそういう感情持ったりしないですよね?」
「そういう感情って?」
「それは...その...好き...とか...」
顔を赤くしながら言っている。案外うぶなやつなのだろう。
「さぁどうだろうね」
「...俺負けませんから」
「ふーん」
俺は広瀬の頭を撫でる。
「頑張れよ」
そう言って俺は広瀬に背を向け歩き出す。
「よ、余裕ぶってられるのも今のうちだからな!」
俺は答えることも振り返ることもなく歩き続ける。
もし広瀬が遠野のありのままで接することができる人ならばそれで良い。それなら俺がいる理由はないから。その時は広瀬が遠野の隣に居てくれれば良い。
そう思っていたが俺の心にある彼女への恋心が広瀬にこの思いを伝えることを拒ませていた。