高校の卒業式。私たちは胸ポケットに花を入れ、クラスごとに並ぶ。校長先生の話や在校生の送辞、卒業生の答辞。色々なことが行われ、改めて高校生活が終わろうとしていることを感じていた。
そして卒業式が終わり、私たちのクラスに戻る。
「皆卒業おめでとう。これから辛いこともあるかもしれないけど、そんな時は笑ってなんとかなるって思ってれば大丈夫。逃げたくなったら逃げ出せばいいからな。皆の未来が幸せに満ちてることを願ってる。では以上!お疲れ!」
先生らしい言葉で終わらせてくれた。泣いている子もいれば笑って戯れている子もいる。
「結衣〜。こっち戻ってきた時は遊ぼうね〜」
「うん。もちろん」
佳奈は東京の専門学校に合格した。離れ離れになるけど佳奈となら何年たっても変わらず友達でいられると思った。
「この後カラオケ行かない?」
私はそっと先生の方を見る。先生は生徒に囲まれて楽しそうに話している。
「...むり...か...」
「結衣?」
「ううん。いいよ、行こう」
佳奈と一緒に教室を出ようとした時だった。
「遠野さん」
声をかけてくれたのは風磨くん。
「いいの?」
「え...?」
「それでいいの?」
風磨くんが何について言っているのかすぐに分かってしまった。先生に何も言わず教室を出て良いのか...。本当にそれで良いのかと言ってくれているのだろう。
「でも...私は...」
「それで本当に後悔しない?」
先生に好きだと言ってもらえて嬉しかった。先生の前で泣いて心が温かくなった。先生に沢山励ましてもらった。先生からもらったものは沢山あった。気持ちに区切りをつけた先生にはもう私への気持ちはないかもしれない。それでも私には伝えたい想いがあった。諦めきれない想いがあった。
「佳奈ごめん。私用事がある」
「...うん。分かったよ」
「風磨くん。ありがとう」
私は先生の元へ行った。
「あの、先生...」
先生の周りにいた3人の女の子が私の方を見る。先生も私を見つめていた。
「あの...」
恥ずかしさが込み上げ言葉が出てこない。やっと先生の元に来たのに...。このままじゃダメなのに...。
私を不思議そうに見る3人の女の子。その様子を見て先生が言った。
「遠野。またファイルグチャグチャになっちゃったんだよ。最後に整頓してくれる?」
「...はいっ!」
私は元気よく返事した。
「先生ー。私も手伝うよー」
「私も」
女の子たちが言う。それを聞いた先生は笑って
「遠野にやってもらいたいから」
と言った。
私たちは並んで資料室へ向かう。黙って隣を歩く先生に私の鼓動の音が聞こえないことを願っていた。